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調律の功罪

 「バンドネオンはピッチが乱れ易く、調律を自分で何とかならないものか」と考える人はいると思う。中には、掃除機や そのほか 吸引を利用して、ふいごを作り挑戦している人もいるようだ。調律はリードの物理的変化をもって個々の音程を整え、任意の振動数を得ているが、環境によって大きく振動数が変ることもある。器内においてもそうだが、このリードの振る舞いを知らずに真の調律は出来ない。例えば、ふいごの上にリードを乗せ、音を出したとしよう。その都度、位置が変われば環境も変わり、ピッチ差を求めて精確を期することは出来ない。不的確な調律を繰り返す内にリードは傷み、場合によって用を成さなくなることになる。道理をわきまえず、リードの根っこを削ったり、先端を削ったりの調律をしていては、憂慮すべき事態を招きかねない。削られたリードは元に戻すことは出来ないが、分布の状態によっても、自由振動に悪影響を及ぼすことになる。

 実際の調律となれば、それなりの道具や道理・経験を要し、又、奏法における特徴を知る上で弾けることも条件の一つになるだろう。個々の特徴や変化を確かめ、チューニングに当たることになるが、一様ではない過去に負を持つ楽器も多く、メーターと にらめっこだけの調律では 済まされない この楽器の難しさがあるようだ。

 ところで、以前 楽友から聞いた話だが コンサートツアーの折、バンドネオンの一部に乱れがあったので、当地 (都会) の楽器店へ調律に出したそうだ。ところが、なんとアコーディオンのように波打たせ、高低混在の調律で帰ってきたそうだ。笑い話で済まされない事態に困っただろう。今は そのようなことはないと思うが、認識や、マイナーの弱みか、否めない部分はあるかも知れない。アコーディオンは大衆楽器として確立され、その点、調律やピッチ替えなど比較的単純で、技術差も抑えられるようだ。この楽器にも関わる中そう思う。シャンソン風の唸りを特徴とする楽器でもあり、受け渡し共々 ラフになれるのかも知れない。前述の驚きもこのようなことに依るものだったのだろうか。

 バンドネオンは、調律・調整の難しさのみならず、華奢な内部構造が、手荒な扱いで傷めることがある。調律の際、ボタンカバーを外して行うことは絶対禁物だが、機構をむき出しにして楽器をふいご代わりに蛇腹に押し付け、調律しているのを映像で見ることもある。音の出る蓋の開閉を見てリードの位置関係を探るためだろうか、いやぁ~? 常に関わる者なれば考えられない。乱暴な扱いで台板割れを起こしていることが多く、限られた貴重なバンドネオン心したいものだ。いつまでも蛇腹楽器の中の優れものとして、魅せ続けて欲しいと願っている。

自作ふいご

 吸排による任意の強弱や、定圧装置で固有振動の変化を抑え、リード ボード(プレート)は、発音から調整まで環境を変えず行えるようにしている。上面右端の写真は、パレット(音を出す開閉蓋)の適正耐圧で空気漏れ箇所やその他、状態を確かめながら補修・調整。