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バンドネオンのリペアとツール

 時折り、バンドネオン のメンテのことで尋ねられることがある。ちょっとした不具合は、自分で何とかして凌いでいても、調律は、Vn.や Gr.の調弦のように誰でもと言う訳にもいかないように思う。発音体のリードの先端や根っこを削って治まるという訳でもないだろうが、削られた分布の状態によって自由振動を阻害することもある。ましてや、一律でないバンドネオン の調律ほど難しいものはないと思っている。自己範囲とは別に、考えている人もいるそうだが、バンドネオン のメンテは、アイデアやノウハウなど家族的に伝承されることもあり、安易な思いつきで成せるものではないように思う。私のような凡俗の言えることではないが、音楽感性や、観察力・工夫・手先 (器用) ・忍耐が求められ 、奏者の立場で本来の特徴を見極めるため弾けることも大事だろう。尚、調律は道具の扱いによって成果も大きく左右されると思う。

 ところで、話はそれるが、道具の扱いで、怖い思いをしたことがある。昔、娘が1歳の誕生過ぎ、股関節脱臼で入院したことがあった。2~3ヶ月の牽引で治まらず、X線透視で整復、ギプスを3ヶ月位していた。これまで任せきりだったが、退院、数週間後、肌ずれの治療で、私が連れて行き、処置室で待っていた時のことである。看護婦さん (当時) 2~3人と担当医の先生が台の上で仰向けにさせ、石膏を切る準備をしていた。傍にあった道具が、ディスクグラインダーそっくりの形をしていたので尋ねると、非回転の石膏を切る電動工具との事だった。やがて、石膏を切る音がし、囲まれた隙間から動作を見て怖くなり立ち上がって、「先生、大丈夫ですか?」と声をかけてしまった。担当医の先生が、「回るのでないから、大丈夫です。心配しないでそこに座っていて下さい。」と叱責のような言葉が返って来た。でも心配でならない、恐怖を感じて声をかけたのも、重そうな工具の胴部分を上から両手でつかみ、力を入れて押さえつける動作を見ての事だった。普通、道具を使って物を切ったり削ったりする時は、刃先が負荷から抜け出す瞬間、余分な力が働き、危ないので、直ぐ止められる構えで扱うのは、暮らしの知恵のようなものだと思うのだが。 娘を家に連れて帰り、包帯を外して見ると、案の定、へその下の方に細長で2~3cmの擦り傷、その上に、手当したガーゼに血が付き赤く腫れていた。激しく泣いていたのも、怖いだけではなかったようだ。慌てるような感じを後になって思うが、そのことを担当の先生から何ら知らされることもなかった。傷痕が今でも消えず残っているそうだ。父として対応しきれなかった呵責を未だ忘れきれないでいる。

 ナイフを使った リンゴの皮剥きや、鉛筆削りが出来ない事で話題になることもあるが、近年、転んで前歯を折る子も増えているそうだ。私ごとの長文になったが、道具は使う前の段階から研いだり、整えたり、目的を考えながら成した時代と、手先をあまり使わず誰でも簡単に使える便利な時代と、どちらがどうか分からないが、考えさせられる事だった。

 さて、リペアについて、調律はともかく、リード折れなどで、新たにリードを取り換えることもある。ボードと相対関係にあり、材質は勿論のこと、リードの加工やリベット(鋲)の処理など細かな作業だが、外形を整えても厚みの分布によっても変わり、場合によっては、ボードが歪んだり、精度(ボードとのギャップ )が著しく落ちれば、後々影響を及ぼすことにもなる。この作業は熟練を要し、その他、リペアで道具作りから始める事もあるが、只、好きだけでは治まらないようにも思う。