バンドネオンの泣きどころ

 現在、演奏家やアマチュアの使用しているバンドネオンは、7~80年も前に製造された、いわゆる戦前製の楽器 (71ボタン) がほとんどのようで、対象の古い楽器をたぐれば、著名演奏家の息のかかったものや、語り継がれる名手の汗が沁み込んだのがあるかも知れない。近年バンドネオンに魅せられ手にして始める人も増えているそうだが、この楽器の負の面についても知っておくべきと思う。

 コンセルティーナから派生したとされるこのバンドネオン(71ボタン)は、蛇腹の左右両端に、ボタン操作の機構や、多数のリード276枚 (左132、右144) が競り合うように組み込まれている。両側面に配置された71個のボタン 、左右に大きく伸縮する蛇腹で形態を成しているが、その操作性も相まって独特の音色を引き出していると思う。その反面、機構など限られたスペースの制約を受け、何かと泣きどころも合わせ持っているようだ。何であれ、一方だけで成り立つものは存在しないだろうが、ボードの振る舞いでも変動することがある。発音体のリード276枚を14個(右8、左6)のボードで分担しているが経過や扱いによる歪み等で、各音室の気密が変ることもある。又、リードを止めたリベット (鋲) の処理による弛みで変動することもあるが、新古に限らずピッチの乱れを引き起こす原因にもなっているようだ。制約を受けた構造上によるものだろうが、僅かな乱れも澄んだねいろに際立ち易く、ある一定の固有振動を示すリードも環境により10セント以上 (半音は100セント) と大きく変動することもある。発音体以外にも、あれこれと不具合も生じ、補修を重ねて維持されてきたと思うが、特有の音色 (ねいろ) や形体を変えず、改善したモデルを期待したいものだ。

※注 LとH の表現は、アコーディオンの表現と異なり、オクターブ差のリードに対し、L (低い)、H (高い) を用いた。