小気味良い歯切れ、澄んだねいろ、しぼり出すようなねばり、哀愁を誘うとも言われるが、膝の上で奏でるところにあるのだろうか。リード構成が右高音域の一部を除き、オクターブ差を持つ対リード
(2枚) が蛇腹ワークによって独特の音色を成していると思う。
同属のアコーディオン(A) とバンドネオン(B)
のリードの材質について、何かと言われることがある。B に対する格別の想いからかも知れない。A、B それぞれの音色は、構造やリードの構成によるもので、材質の違いだけによるものでもないだろう。ネットで、バンドネオンの音色を成しているのはスウェーデン鋼のリードによるものと記した人もいる。すりこみか、B
の一念によるものだろうか想いにうなずけないでもないが、本当はどうであれ、何かにつけ謎めいた楽器でもあるようだ。
若い頃、リードボード (プレート)
とリードの自作に挑戦したことがある。その時分、リードに適した材料はないものかと調べる内に知ったことだが、鉄をもろくするリン (P) や硫黄 (S) などの不純物を除くことの出来なかった時代、P や S
など含有量の少ないアメリカや旧ソ連圏、又、北欧の鉄鉱石で有名になったのがスウェーデン鋼なるものだったそうだ。1800年代の終り頃から、製法や除去の技術も進み、近年は混ぜたり除いたり適材の鉄が造られるようになっているのだろうが、中でも今、日本の鉄鋼技術は世界をリードしているそうだ。
音色に関わるとも言われる、リードボード
の材質のことだが、スタンダードの亜鉛ボードの他に、アルミ (高力アルミ・ジュラルミン) 合金のボードも中には存在する。耐食性は少し劣るが、アルミ製のボードで精度 (立て付け)
の良いリードを持つ楽器は、戦前製の名クラスと何ら遜色を感じる事もなく、むしろ、音の出など本来に迫るバンドネオンもあるようだ。ところが、戦後製の楽器の中には、リードの材質や整合性(立て付け)の悪い楽器が出回り、敬遠されるようになったのではないだろうか。"戦前"
"戦後"と優劣を二分する代名詞のように使われていると思う。良しとする戦前製の楽器も経過において、一様ではないが、魔の笛と称されるバンドネオンは、2枚リードがかもし出す澄んだ音色に尽きると思う。半音 (短2) の不協和音でも独特の唸りは哀愁をそそる。ファンにとって、ハートに沁みる この楽器は、いつまでも魅了させることだろう。