国内に、現在バンドネオンがどれ位あるだろうか? 千5~6百台?いや、2~3千台位と聞くこともあるが、中には、傷んだり壊れかけているのが多数あるかも知れない。
30年程前、道のかたわらで、捨てられたバンドネオン
(ディアトニック) の一部を拾った事がある (参照)。リードは錆び、膠は離れ、木部は灰色に色あせて、あばらをむき出しにした有様だった。ひと頃、真剣に向き合って貰えたかもしれないだろうに・・・ 粗末にも、この終焉を無情にさえ感じたものだ。
ところで、戦前、国内で使われていたバンドネオンは、大半がクロマチックだったようだ。その数は、差程でもなかったと思うが、昭和
10年(1935)頃、東京銀座の楽器店 十字屋にAA のバンドネオンが出ていたそうだ。黒無地が650円、通称、三ツ星は720円、螺鈿花模様が950円もしたうだ。家が買える程だったと聞いたこともあるが、今ならいくら位になるだろうか? 物価は単純に指数で語れないと思うが、当時、銀座の地価が、ある資料によると、一坪(約3.3㎡)
1万円位だったそうだ。場所や売り手買い手、その一件の土地の広さによっても大きく変わると思うが、現在、銀座4丁目で一坪3,400万円位(公示地価) のようだ。これを今の値に直して当てはめると、無地で安いバンドネオン650円が、3,400倍の221万円にもなるようだ。当時、庶民感覚からすれば、高根の花の存在だったと思う。あるサイトによると、その頃、大卒初任給が55円位だったとか、月給
1年分位にもなるが、目的を見越した人しか買えなかったかも知れない。この650円のバンドネオンが大連の免税店では300円で買えたそうだ。物品税や通関税その他、倍以上も掛かっていたのだろうか。
昨今、バンドネオンと言えば、アルゼンチン仕様に倣い、ディアトニックが主流になっているようだ。戦後、アルゼンチンからバンドネオン奏者や、楽団の来日をきっかけに、ディアトニックが見直され、クロマチックから除々に持ち替えられたと思う。その頃から南米、主にアルゼンチンなどから業者を介し、又、個人的に買い求め、国内に持ち込まれて増えてきたと思う。将来、手ごろな価格で、戦前製に劣らぬ良い楽器が出てくれば、もっとバンドネオン人口は増えてくるかも知れない。躍進を期待したいものだ。
(参照)
捨てられたバンドネオン、ステレオカメラで撮った立体写真。同じ写真が左右2枚に分かれて何の変哲もないように見えるが、交差法で、 (右目で左の写真を、左目で右の写真を、それぞれに視線を合わせ、より目で力を抜いて遠くをぼんやり見ていると) 映像が浮き出て立体に見えてくる。詳しくは、こちらのサイト。