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想いにはせて

 近年、バンドネオンや、この音楽に興味を持つ若い人が増えているように思う。ピアソラの音楽がジャンルを越え、取り上げられるようになってから、国内でも新進の演奏家による活躍などで誘い水になっているのかも知れない。これまでのTDT(注)音楽志向とは少し異なる奏者の関心もあるようで、さらなる盛り上がりを期待したい。


 今は、ネットで欲しい情報など得ることが出来、何かと便利になり、隔世の感も一入だ。昔、また写しの楽譜 (パート) に甘んじていた頃の話だが、ジャズが一流アレンジャーによるものの演奏に、TDTの冷ややかさを感じたものだ。その当時、新たなパートやレパートリーを増やすため、アレンジや手っ取り早いレコードからのコピーなどに精出した。聴音は近傍程度だったが、相対音感は慣れていたので別に不自由はしなかった。でも、複雑にメロと絡む和音の分解など気遣ったものだ。その頃のレコードプレーヤーは、回転数4段 (16、33、45、78) の切り替えで、早い動きなど聴き取り難い時に回転を下げ、低音の小さい音など逆に上げて、採譜したものだ。分析ではないが、アルゼンチンの奏者のテクやアンサンブルについて知ることもあった。当時、ティピカ NHK の池田光男氏から間接的に誘いを受けたこともあった。身の程気にせず、思いに向け頑張ったものの、所詮、拙さは今日に至っている。

 key や tempo を変えられるコンパクトなCDプレーヤーを持っているが、たまにtempo を変えてみることがある。音楽は聴くもので、機械的な動きを調べるものではないが、tempo を下げると、早い動きの技量の違いや、in tempo で隠れがちな細やかさを知ることもある。 また、小型のデジタルオーディオプレーヤーでポケットなどに入れて4桁オーダーの曲を聴くことも出来、便利になったものだ。 拙い者だが、音楽にこだわり生きていけることを何より幸せに思っている。

(注) TDT・・・T=トニック、D=ドミナント、T=トニック
        タンゴのエンディングから抽象的に表現したもの